放射線の生物学的影響に関する研究調査事業委託業務実施報告書(平成25年度原子力災害影響調査等事業)

 環境省が、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構、国立遺伝学研究所に委託して実施した「放射線の生物学的影響に関する研究調査事業」の自宅業務報告書が、情報公開請求により公開された。

 事業の目的は以下のように説明されている。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に起因する低線量の放射線被爆によって福島県の住民が次世代への遺伝性の影響に関する不安を抱える中で、遺伝子レベルの解析手法は、不安の解消に資する有効な手法と考えられる。
 具体的な解析手法としては、父母が受けた放射線被ばく線量と、今般の事故後に生まれた子供の遺伝子の全塩基配列上に現れる突然変異との関係を調査して遺伝性影響の可能性を検討することにあるが、そのような解析手法が実現できるかどうかに関して科学的知見は少ない状況である。
 本委託事業では、マウスやラット等の哺乳類実験動物を対象として放射線による遺伝性の影響に関する科学的な知見を収集することが目的である。具体的には、放射線被ばくを受けた実験動物の親世代とその仔の3個体1組(以下、「トリオ」という)の生体試料から抽出したDNAの全塩基配列を解読し、親と仔の間及び照射トリオと非照射コントロール間で全塩基配列の情報を比較することで新たに仔にみられる突然変異の個数を調べ、親の被ばく線量と仔の突然変異との関係について調査する。また、この調査結果をもとにヒトの父母子(トリオ)に関して外挿可能な手法開発の可能性についても検討する。

 実験はマウスを使って行われ、雄に20mGy/22時間/400日(集積線量 8000mGy)のγ線を照射した照射雄と非照射雌、非照射の雄・雌の交配による仔への影響が調査されている。被ばく雄は寿命短縮効果が認められ、照射雄との交配では平均出産数と仔のマウスの平均離乳数に統計学的に有意な現象が認められたとのこと。また、被ばく雄の仔には、わずかではあるが新規突然変異発生率の有意な増加があるとも報告されている(報告書37ページ)。また、親世代の生殖系列細胞に生じた変異に由来する塩基配列、挿入、欠失部位の数については差はないとも報告されている(報告書38ページ)

 この事業の目的が、調査結果が人間への影響の推測に使えるかどうかの検討を含むため、そのための検討も行われている(報告書41ページから)。結論的には、そのまま外挿できないということであり、人間への影響についてはいくつかの課題やアプローチの方法によっては倫理的・法的・社会的課題があることが指摘されている。

【情報公開文書】

 ○放射線の生物学的影響に関する研究調査事業 委託業務実施報告書
 ○放射線の生物学的影響に関する研究調査事業 検討会1~3回議事要旨・資料

開示請求 2014年4月2日付
開示決定 2014年7月
決定者 環境大臣
決定内容 一部開示

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